「電験三種を取ったのに年収があまり変わらない」「あんなに勉強したのに割に合わない気がする」こういった声は珍しくありません。
結論からお伝えすると、第三種電気主任技術者(電験三種)の平均年収は約500万円。ビルメン全体の平均年収(約436万円)を上回る数字ではあるものの、取得に要する学習コスト(2〜3年・1,000時間超)を考えると「思ったより年収が上がらない」と感じる人が多いのも事実です。
本記事では、電験三種の年収が期待ほど上がりにくい構造的な理由を正直に解説しつつ、それでも取得する価値がある人・ない人を整理します。
電験三種を持つビルメンの平均年収は500万円!
電験三種を保有するビルメンの平均年収は500万円です。日本の平均年収が約460万円、ビルメン全体の平均年収が約436万円なので、全国平均を上回る水準ではあります。

調査方法: 本メディア読者およびSNSを通じたインターネットアンケート
有効回答数: n=132
算出根拠: 各回答者の額面年収から算出(※独自推計含む)
3種の神器内の他資格との年収比較
| 資格 | 平均年収 |
|---|---|
| 電験3種 | 約500万円 |
| エネルギー管理士 | 約515万円 |
| ビル管理士 | 約488万円 |
電験三種の年収が「労力の割に上がりにくい」理由
資格手当の相場は月1万円前後が現実
電験三種の資格手当は月10,000〜50,000円が相場とされていますが、求人データをもとにした調査では「月5,000〜30,000円程度」というケースが多く、ビルメン会社では月1万円前後が実態に近い水準です。
一方、電験三種の取得には一般的に1,000時間超の学習コストが必要とされています。月1万円の手当で回収しようとすると、仮に残業代換算で時給2,000円だとしても500時間分=4年以上かかります。「勉強時間に見合わない」という声が出るのはこの構造的なギャップが原因です。
| 会社の種別 | 資格手当の相場(月額) |
|---|---|
| 大手・系列系ビル管理会社 | 月3〜5万円 |
| 中堅独立系ビル管理会社 | 月1〜2万円 |
| データセンター・通信施設 | 月3〜6万円 |
| 官公庁・公共施設管理 | 月1〜2万円 |
なお、資格手当は義務ではないため、電験三種の保有者が多い職場や業務上それほど必要でない職場では手当がゼロのケースもあります。転職活動の際は求人票の「諸手当」欄を必ず確認しましょう。
「選任」になるまでの道が思ったより長い
電験三種で年収が大きく上がる最大のルートは「電気主任技術者として選任される」ことです。選任されると資格手当に加えて選任手当(月1〜3万円)が加算されるケースが多く、手当合計が月8万円を超えることもあります。
ところが、選任への道には複数のハードルがあります。
選任の形態は3種類ある
電気主任技術者の選任には「自社選任(自社の社員を選任)」「外部選任(ビル管理会社の社員を他社の設備に選任)」「選任許可(資格者でなくても一定要件を満たせば選任できる特例)」の3つがあります。ビルメンに最も関係するのは自社選任と外部選任です。
免状取得直後に選任されるケースは少ない
電気事業法上、選任に「何年以上の実務経験が必要」という明文規定はありません。理論上は免状取得直後でも選任される可能性があります。実際、「ペーパー取得者でも選任された」という事例はあります。ただしこれは例外的なケースであり、会社は電気事故が起きた際の法的責任を取れる人間を選任したいため、実態として現場経験のない人間がすぐに選任されることはほとんどありません。
外部委託・独立ルートは実務経験5年が壁
将来的に電気保安法人や個人の電気管理技術者として独立を目指す場合、5年以上の実務経験証明が必要です(保安管理業務講習の受講で3年に短縮可能。受講費用は10〜13万円程度)。
さらにこの「実務経歴証明書」は勤務先の代表印が必要な書類で、退職時に押印してもらえるかどうかが事前には確約されません。独立を目指す場合は就職先選びの段階で「実務経歴証明書に押印してもらえるか」を確認しておくことが不可欠です。
「人材不足で需給ギャップが拡大」は保安人材に限定した話
ネット上では「電気主任技術者は人材不足で転職が簡単」という情報が広がっています。しかしこれはビルメンとして転職する文脈には正確に当てはまりません。
経済産業省が推計している「2030年に約2,000人が不足」という数字は、電気保安協会・電気保安法人など外部委託で保安業務を専門に担う電気保安人材の不足を指しており、一般的なビルメン(設備管理職)の採用市場とは別の話です。
実際、電験三種に合格した後「人材不足と聞いたのに採用が決まらない」という声は転職市場でよく聞かれます。ビルメン採用では「免状+実務経験+扱える施設種別」がセットで求められるため、免状だけでは採用枠が思ったより広くありません。

参考:電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について
「施設の種別」が噛み合わないと転職市場での評価が低くなる
電験三種を持ち、長年の実務経験を積んでも年収300万円台にとどまるケースが存在します。その主な理由は「積んできた実務経験の施設種別がビルメン会社のニーズと合わない」ことです。
ビルメン会社が管理する主な物件はオフィスビル・商業施設・病院です。工場や特殊施設でのみ経験を積んできた場合、書類選考で弾かれるケースがあります。電験三種は万能の切り札ではなく、「どの現場で何を経験してきたか」が年収を大きく左右します。
例えば、2020年~2024年は太陽光発電所の選任経験がある方の市場価値が非常に高い傾向にありましたが、2025年以降は森林伐採など環境面への影響から案件数が激減。太陽光発電所の業務が、比較的、電気主任技術者の中でもスキルレベルが低くてもよいという現場が多かったため、同施設で経験を積んできた方の多くは年収を下げて転職をせざる得ない状態が現状起きています。
それでも電験三種がビルメンにとって価値がある理由
年収550万円帯の求人票で最も求められる資格
求人データの分析によると、ビルメン業界で年収550万円帯の求人票に最も頻繁に登場する資格は電験三種です。4点セット資格では到達しにくい年収帯の求人に直接アクセスできる点が、電験三種の最大の武器です。
保安業務であれば独立しやすい
電気主任技術者の選任形態は、経産省の資料によると全体の約9割が外部委託です。これは多くのビルオーナーが「自社で電気主任技術者を雇うより外部委託のほうが安い」と判断している実態を示しています。
ビル管理会社の社員として働く場合、会社が複数の物件の電気主任業務をまとめて受託しているケースがあります。電験三種保有者はその「外部選任」として複数物件を担当する形で、会社内での必要性が高まります。
保安業務は非常に独立しやすく、保安協会によっては非常に働きやすさが整っている場所もあり、定年後も働いている方も多く存在します。
法律上の選任義務があり、社内での代替不能性が高い
電気事業法により、自家用電気工作物(契約電力50kW以上のビル・工場)を設置する事業者は電気主任技術者を選任する義務があります。電験三種保有者は法律上必要な人材として代替不能性が高く、4点セット資格の「あると便利」とは質が違います。
資格の取得難易度も高いため、食いっぱぐれない資格の代表格です。
電験三種なしでは対応できない業務の具体例
- 自家用電気工作物の自主検査・保安規程の作成・届出
- 高圧受電設備(キュービクル)の月次・年次点検
- 電力会社との停電作業立会い・接続協議
- 電気設備の故障診断・改修計画の立案
- テナント入退去時の電気系統変更工事の監督
電験三種で年収が高くなる会社・現場の特徴
大手・系列系ビル管理会社
大手系列系は管理対象が大規模な商業施設・オフィスビル・病院で、電気主任技術者の常駐・選任需要が高いです。資格手当に加えて選任手当が支給されるケースも多く、独立系との年収差が顕著に出ます。
独立系と異なり、案件状況による頻繁な転勤がない点も非常に魅力的です。
データセンター・通信施設
24時間365日の電源安定が前提となるデータセンターでは、電気主任技術者の評価が業界内で最も高いです。月5万円超の手当があるケースも存在し、年収600〜900万円台も現実的なラインです。
一方、求められるレベルも非常に高い傾向にあるため、業務負荷も一般的な施設と比べると上がる傾向にあります。プロフェッショナルな姿勢で業務に取り組む必要があります。
電気保安法人(外部委託)
中小規模の工場・ビルの電気保安業務を外部委託で請け負う電気保安法人は、電験三種保有者を専門職として採用します。複数物件を担当するため効率的に実務経験を積める反面、出張が多く体力的な負担もあります。1日に多くのキュービクルのメンテナンスをするケースが多い一方、保安協会によっては働き方改革に取り組んでいるところもあり、かなり協会によって差が大きい印象です。
保安協会を「非常にブラックな働き方の印象がある」という方が、特に経験者だと多い印象ですが、保安協会による差が大きいので、複数の保安協会の話を聞いてみることがおすすめです。
独立(電気管理技術者)
実務経験5年(講習利用で3年)を経て個人事業主として独立するルートです。担当物件数を自分で調整できるため、うまくいけば年収1,000万円超も可能とされています。ただし実務経歴証明書の取得・保安協会や電気技術者協会への所属・設備資材の自費調達など、独立準備のハードルは高いです。
多くの電験3種保有者の転職のご支援をしてきましたが、保安以外で独立を目指されている方や独立をした方は片手で数えるほどしかいなく、あまりメジャーな選択肢ではない印象です。
電験三種を取得したほうがいい人
すでにビルメンとして実務経験がある人
「免状+実務経験+オフィスビル・商業施設の経験」が揃って初めて転職市場での評価が最大化します。実務経験がある状態で取得すれば、資格手当・選任手当・転職によるベースアップという3つのルートで年収を動かせます。
特に、系列系への転職を目指している方や、将来的に保安業務をしたい方は、電験は必須と言っても過言ではないです。
電工2種を持っていて電気系のキャリアを深めたい人
電工2種で培った電気の基礎知識(オームの法則・電力計算・配線図)は、電験三種の理論科目で大きなアドバンテージになります。電気系の仕事にやりがいを感じているなら、キャリアの延長線上として自然な選択です。
設備設計の求人でも、電験3種保有者は、電気に関する知見が豊富という評価で、35歳以降でも未経験で面接に進めるケースも少なくない印象です。
電験三種の取得を急がなくていい人
まだ4点セットが揃っていない人
電験三種の難易度は4点セット資格とは別次元で、誤った順番で挑むと費用対効果が著しく下がります。「4点セット完成→系列系へ転職→電験三種へ挑戦」が推奨ルートです。
電験3種をはじめとする3種の神器は、4点セットと比べ物にならない難易度のため、まずは4点セットをとってから取得を検討することをおすすめします。
工場・特殊施設のみでの経験しかない人
実務経験があっても、ビルメン会社が求めるオフィスビル・商業施設での経験がないと転職市場での評価が上がりにくいです。まず施設の幅を広げてから取得を目指す方が、取得後のリターンが大きくなります。
一方、働く場所を問わないという方はこの限りではありません。地方や僻地の電験3種、電験2種の工場などの求人は常にどこかしら急募をしています。
「都心で働きたい」「家から通える範囲で働きたい」という方は、商業施設や保安業務などどこにでもある施設の経験を積むことをおすすめします。
まったり働くことを最優先にしている人
電験三種を持っていると選任されることが多く、法的責任を伴う業務負荷が増します。のんびり働くことを重視している場合、取得のメリットとデメリットを慎重に天秤にかけてください。
資格支援目的で取得した結果、会社から責任あるポジションに自分の意思と関係なくつくことになったというケースも少なくないです。
電験三種の試験概要と最短合格のコツ
受験資格・試験日程・受験料
電験三種に受験資格はなく、誰でも受験できます。試験は上期(8月)・下期(3月)の年2回実施で「理論・電力・機械・法規」の4科目があります。
受験料は7,700円(インターネット申込)です。科目合格制度(合格した科目は最大5回分の試験まで有効)があり、複数年かけての合格が可能です。合格率は2022年度の試験制度改定(CBT導入・年2回実施)以降、12〜21%程度で推移しています。
以前は「合格率8〜10%の超難関」でしたが、試験制度改定の背景には「このままでは電気主任技術者が2030年に2,000人不足する」という経産省の推計があります。国が意図的に合格者数を増やす方向に舵を切ったため、今は過去問の使い回しが多く比較的合格しやすい時期といえます。ただし難易度の回帰も予想されており、取得を目指すなら早い方が有利です。
社会人が2〜3年で合格する勉強スケジュール例
| 期間 | 内容 |
|---|---|
| 1年目前半 | 「理論」に集中。電気の基礎(オームの法則・複素数・三相交流)を固める。電工2種の知識があれば比較的スムーズ。参考書1冊+過去問10年分が目安 |
| 1年目後半 | 「法規」を追加。暗記科目が中心で、理論と並行して進めやすい。上期試験で2科目合格を狙う |
| 2年目前半 | 「電力」に集中。発電・変電・送配電の仕組みをビルメンの実務経験と紐付けて理解すると定着が早い |
| 2年目後半〜 | 「機械」に集中。4科目の中で最も範囲が広く難しい。変圧器・モーター・パワーエレクトロニクスまで幅広く、時間をかけて取り組む |
1日1〜2時間の学習で、科目合格制度を活用しながら2〜3年での完全合格は十分現実的です。科目合格の有効期間は「合格した翌年度から5回分の試験」です(年2回実施になったため実質2年半程度)。計画的に受験スケジュールを組みましょう。
電験三種 ビルメンおすすめ度「★★★★☆」
年収アップ期待値:★★★★☆
手当だけでは「労力に見合わない」と感じることも。ただし実務経験とセットで系列系へ転職できれば年収100〜200万円単位のジャンプアップも現実的です。使い方次第で評価が大きく変わる資格です。
取得コスパ:★★★☆☆
2〜3年・1,000時間超の学習コストは重いです。ただし現在は試験制度改定で合格率が上昇中。科目合格制度を活用しながら社会人でも着実に合格を積み上げられます。
求人の安定性:★★★★★
法律上の選任義務がある資格のため、景気変動に左右されにくいです。ビルメン・電気保安法人・製造業・データセンターと業界を越えて使えます。
業務の楽さ:★★★☆☆
選任されると法的責任を伴う業務が増え、4点セット資格と比べると現場でのプレッシャーは高くなります。ただしそれだけ「なくてはならない人材」として評価されるともいえます。
よくある質問(Q&A)
Q. 電験三種を取ったのに年収があまり上がらないのはなぜですか?
主な理由は3つです。①資格手当は月1万円前後が実態で1,000時間の学習コストに対して低い。②選任には実務経験が事実上必要なため、取得直後は手当の上積みが限られる。③積んできた実務経験の施設種別がビルメン会社のニーズと合っていないと転職評価も上がりにくい。年収を大きく動かすには「転職によるベースアップ」か「選任就任」がセットで必要です。
Q. 「電気主任技術者は人材不足」と聞いたのに転職が決まらないのはなぜですか?
経産省が推計している需給ギャップは、電気保安協会・電気保安法人などの「電気保安人材」に限定した話です。一般的なビルメン採用市場では「免状+実務経験+施設種別の合致」がセットで求められるため、免状だけでは採用枠が広くない場合があります。
Q. 独立して年収1,000万円は本当に可能ですか?
個人の電気管理技術者として複数物件を担当することで実現した事例はあります。ただし独立には原則5年(講習受講で3年に短縮)の実務経験証明、電気技術者協会等への所属手続き、設備資材の自費調達などの準備が必要です。また実務経歴証明書は前職の代表印が必要なため、独立を目指す場合は就職先選びの段階で押印の可否を確認しておくことが重要です。
Q. 科目合格の有効期間はどのくらいですか?
2022年度の制度改定で「合格した翌年度から5回分」に変わっています(以前は「合格した翌々年度まで有効」でした)。年2回試験が実施されるようになったため、5回分は概ね2年半程度に相当します。4科目を計画的に取得するスケジュールを組む際は、この有効期間を念頭に置いてください。
Q. ビルメン未経験でも電験三種は転職に有利ですか?
免状があるだけで書類通過率は上がります。ただし未経験の場合、入社後すぐに選任されるケースは少なく、数年間は先輩の下で実務経験を積む期間が生じます。未経験可の大手・系列系企業を狙い、入社後に実務経験を積みながら選任を目指すのが現実的なルートです。
35歳以下であればビルメン未経験でも採用してくれる会社もありますが、40代以降になるとかなり難易度が上がる印象です。


コメント